ルッキンファッキン
「ちくしょう!こんなんじゃ駄目だ!!」
僕の怒鳴り声が、部屋に響いてこだまする。僕はよたよたと椅子に座りなおした。全員顔を伏せたままだ。部屋の空気は淀んでいく。
「ハァ、こんな時、ルッキンファッキンの山田さんなら何て言うだろう。」
ルッキンファッキンの山田さんは、世界で一番偉大な人だ。ルッキンファッキンの山田さん程すごい人を、僕は見たことがない。
ドラムの黒竜江が言った。「やっぱり、根本から音楽を見直さなきゃいけないんじゃないかな。」
何を言う!今更変えられるか。一流になるなら、俺たちの音楽を貫くんだよ!第一この詰まったしがないバンドが、音楽を根本から変えたら、かえって混迷を極める。
ルッキンファッキンの山田さんなら、絶対こう言うはずだ。
「お前ら!こっちを見るんだよ!こっちを向けバカヤロー!!」って。
ベース兼ボーカル兼機械整備士の洛水が言った。「もう別に、いいんじゃない?就職しようぜ。」
このクソ黙れい!そんな弱気だからいつまでたっても成功しないんだ!俺たちはこの道で生きるって誓ったじゃないか。もっと自信を持て!
ルッキンファッキンの山田さんは世紀の天才だ。彼は毎回々々、俺たちに大切なことを教えてくれた。きっと、彼ならこう言うはずだ。
「お前ら!こっちを見るんだよ!こっちを向けバカヤロー!!」
その時ギター兼照明の漢江が言った。「あの、バイトがあるから、帰っていいかな?」
いいわけねえだろ!そんなの休め!この野郎お前、バンドがやばいからってバイトを優先しやがって。いま大事な話し合いしてんだろうが。ここにいろ!
全く。いまのこの状況を見たら、ルッキンファッキンの山田さんなら何て言うだろう。もはや業界では伝説となっているルッキンファッキンの山田さんならこう言うに違いない!
「お前ら!こっちを見るんだよ!こっちを向けバカヤロー!!」
すると、作詞兼清掃員の金沙江が口を開いた。「おい淮河、お前はどう考えるんだよ。」
あん?そんなの決まってる、このまま今の音楽で勝負するんだよ。絶対分かってくれる人はいる!
そうしたら、みんな口々に言うのだ。無理だ、このままじゃ終わりだろ。現実を見ろよ。誰も聴いてくんねぇんだよ。頑固に何も改善しないで突っ走っても、駄目に決まってんだろ!!
そんなこと言ったて、じゃあどうするんだよ。ルッキンファッキンの山田さんがこれを見たらどう思う?何て言う?唯一無二の逸材と評されたルッキンファッキンの山田さんならこう言うさ。
「お前ら!こっちを見るんだよ!こっちを向けバカヤロー!!」